食品工場では高レベルな衛生管理が行われており、ゴキブリが大きな問題になることは多くありません。
しかし、建物の経年劣化や設備の老朽化、従業員の入れ替わりなどにより、ゴキブリ発生のリスクは常に存在しています。わずかな隙間に潜むゴキブリは「対策をしているから大丈夫」と安心していると、いつの間にか工場内で増えてしまうこともあります。
今回は、食品工場のゴキブリ対策で陥りやすい4つの落とし穴について解説します。
安心してはいけないゴキブリ対策
次のような時、食品工場では「ゴキブリの心配はほとんどない」と判断していることが多いです。
- 粘着トラップで捕獲がない
- 定期的に業者が薬剤散布をしている
- 年に数回くん煙剤で駆除している
- ゴキブリはたまに外から入ってくるだけ
もちろん、実際に良好な状態を維持できていることが大部分です。
しかし、各対策の精度が足りず形式的な調査・施工になっていて、実は問題が進行していた、というケースもあります。
完璧な調査方法や防除方法は存在しません。それぞれの弱点を理解することで、補完しながら管理することが可能になります。
食品工場のゴキブリ対策4種類の比較
| 対策 | 主な目的 | 限界 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|---|
| 捕獲モニタリング | 生息状況の把握 | 偶発的な捕獲で設置場所も限られるため、捕獲ゼロ=生息なしではない | 設置場所・トラップのサイズ |
| 定期薬剤散布 | 駆除・予防 | 目的に合わない薬剤選定や方法では効果が出にくい | 薬剤選定・施工場所の理由が目的に合っているか |
| くん煙剤 | 簡易駆除・生息確認 | 煙が届かない場所には効果が及ばず、内部発生の駆除には不十分 | 死骸の数・場所の記録と評価 |
| 外部侵入対策 | 侵入防止と発生源の特定・駆除 | 「外からだから仕方ない」で発生源調査や対策が省かれやすい | 排水処理設備・マンホール内の調査・駆除 |
1.粘着トラップで捕獲がない
まず大前提として、ゴキブリの捕獲調査は生息状況を正確に反映するものではありません。
捕獲ゼロだからといって、生息していないとは限りません。
例えばクロゴキブリは、水を多く使用する工場で発生しやすい一方、粘着トラップが濡れてしまうため設置できる場所が限られます。
またチャバネゴキブリは、狭い隙間や機械内部、高所などにも営巣するため、営巣リスクが高い場所へ定点トラップを設置すること自体が難しい場合があります。
注意するべきポイント
ゴキブリが捕獲されないような場所に設置されていないか
粘着トラップによる捕獲は偶発的なもので、「ここに置けば必ず捕まる」というものはありません。反対に、捕まりにくい状況はあります。クロゴキブリは床を歩くことが多く、壁の垂直面に設置したトラップにはあまり捕獲されません。ゴキブリの営巣リスクが高い場所には定点トラップを置けず、離れた場所に置くこともあります。また、水に濡れたり、粉や埃が多く付着したトラップでは、ゴキブリが入っても捕獲できません。
ただ、こうした捕獲されにくいトラップ設置がされていたとしても、不可抗力でそうせざるを得ないこともあります。
トラップの大きさや形状は適切か
クロゴキブリは1cm前後、チャバネゴキブリは5mm前後の狭い隙間を好むことが知られています。そのため、粘着トラップも同程度の物が適しています。数cmの高さで大きく開口したトラップではゴキブリに対する捕獲確率が下がり、生息調査の信ぴょう性が損なわれます。ゴキブリの生態に合わせた設置が重要です。
当社で使用しているゴキブリ用トラップは、紙製(大小)・PPポリプロピレン樹脂製(大小)いずれも1~2cmの高さです。



適切に生息状況を把握するには
- できるだけゴキブリを捕獲しやすい場所に置く
- 粘着トラップはゴキブリが好む大きさのものを使う
最も重要なことは、ゴキブリの捕獲調査を信用し過ぎないことです。次のような調査を組み合わせる必要があります。
- 従業員への聞き取り調査を行う
- 目視調査を実施する
- 臨時トラップを追加設置する
- 薬剤による追い出し調査を行う
複数の状況証拠を集め、その結果として「生息なし」と判断することが重要です。
ゴキブリの発生が疑われる時には、誘引剤を併用した方がよいでしょう。クロゴキブリやチャバネゴキブリでは捕獲率の向上が期待できます。
また、ゴキブリは暗くなってから活動しますから、消灯後1時間くらいしてから現場を見に行き、ゴキブリが歩き回っていないかを直接見るのも有効です。大量の水を使う畜産・水産の加工場などでは粘着トラップによる調査の精度が落ちるため、現場環境に合わせた調査方法をとる必要があります。
これらは防虫業者がやるべきことが多いですが、現場担当者によっては要求しないとやってくれないことがあります。契約の範囲内でどこまでやってくれるのか確認して要求しましょう。お客様のご協力が必要なこともあります。
つまり、捕獲ゼロは「生息なし」と安心できる必要条件の一つでしかなく、十分条件にはならないということです。
捕獲だけに頼らない生息調査についてはこちらで解説しています。
関連記事:食品工場の防虫対策で取り組むべき生息調査 | MECEフレームワークで考える
2.定期的に業者が薬剤散布をしている
防虫業者による定期的な薬剤散布を有効なものにするには、目的に対して適切な仕様設計と効果判定が重要です。
殺虫剤を散布しているという事実だけで安心するのは危険です。殺虫剤は魔法の水ではなく、それぞれに科学的な特徴があり、用途・目的に応じて使い分けなければ意図した効果は得られません。
注意するべきポイント
- 施工の目的は明確か
- 薬剤選定は適切か
- 散布場所や頻度は適切か
- 効果判定を行っているか
- 何年も前からずっと同じことをしていないか
殺虫を目的とするのか、忌避を目的とするのか、追い出し調査を目的とするのかによって、適切な施工方法は異なります。
「どうだったら適切か」は現場によって異なり、明確な基準をここで示すことはできませんが、以下の内容を防虫業者に説明してもらいましょう。論理的に整合性がとれているかどうかは、専門知識を持っていないお客様でも十分に判断可能なはずです。
- 選定した殺虫剤の有効成分・剤型が、目的に対して有効である理由
- 実施する場所・頻度・回数が、対象害虫の生態に照らして有効である理由
以前からの年間管理契約の場合、防虫業者の担当者が代わって当初の目的が分からなくなっているケースがあります。理由を回答できないから即座にその業者がダメとはなりませんが、見直して最適化する必要はあります。
適切な薬剤散布を行うには
- 施工目的を明確にする
- 目的に応じて薬剤を選定する
- 効果判定を実施する
- 結果に応じて施工内容を見直す(PDCA)
なによりも大切なことは、業者任せにせず、お客様ご自身でも「目的と手段の論理的整合性」を確認し、PDCAサイクルで見直しすることです。
内容には納得できても、費用が高いと感じる場合は相見積をとりましょう。仕様を伝えて見積だけとるよりも、多少面倒でもゼロベースで提案してもらった方がよいと思います。お客様の理解が深まるからです。
防虫業者は年間管理契約の金額を維持・拡大させることが社員の賞与の評価項目になっていることがあり、たとえ意味があまりない施工であっても、業者の側から削減を言い出すことはほぼありません。よくディスカッションし、限られた予算を効果的に使うようにしましょう。
あまり効果的でない事例
過去からの流れで「ただやっているだけ」という薬剤施工は珍しくありません。
- 製造エリアの機械やモーターでチャバネゴキブリが増えているのに、内壁沿いにスミチオンNP-FLを散布するだけ
- 壁内でクロゴキブリが増えているのに、アースレッドWを炊くだけ
- 外のマンホールでワモンゴキブリが増え建屋内でも捕獲があるのに、外壁沿いにトラストを散布するだけ
ここでは詳細な説明はいたしませんが、虫の生態や現場状況と薬剤の特長が合っておらず、高い効果が得られるとは考えにくい例です。
「薬剤散布は年間契約の仕様に入っているのに、ゴキブリが減らないな」と思ったら、なぜこの施工をしていて、どんな効果を見込んでいるのか、期待した効果は出ているのか、防虫業者に確認してみましょう。
以前、鹿児島県の食品工場で「他社で毎月薬剤散布してもらっているけど、たまにゴキブリを見る」ということで単発施工をやらせてもらったら、壁の中から100匹以上のクロゴキブリが出てきたことがあります。
まとめると、薬剤施工が目的に対する適切な手段になっているか、常に見直す必要があるということです。
3.自社で年に数回くん煙剤で駆除している
くん煙剤は「広く・浅く・安く・手軽に」使える薬剤です。表面的な駆除にとどまることが多いため、実施後の評価と対応が重要です。
注意するべきポイント
- くん煙剤の限界を理解したうえで、目的を設定しているか
- 目的に合った薬剤を選んでいるか
- 施工結果を評価しているか
ゴキブリ用くん煙剤の特長は「手軽さ・安さ」であり、食品工場で内部発生しているゴキブリを駆逐するほどの駆除効果は期待できません。薬剤が効かないのではなく、煙が自然に漂うのに任せるため、ゴキブリが生息している壁内や奥まった機械内部まで煙が届かないことが多いからです。
有効成分は速効性・忌避効果(追い出し効果)が高いピレスロイド系が主に使用されており、付着量・付着面から考えても残効性はあまり期待できません。
ゴキブリはいないという前提で、それを確認するために使用するのは適切でしょう。
死骸が出ていれば成功?
どのように予想していたか、によります。ゴキブリがいないことを確かめるために実施したなら、死骸が無くて成功です。
いるゴキブリを駆除するのであれば、死骸があれば成功です。ただ、くん煙剤で内部発生のゴキブリを完全に駆除することは難しく、氷山の一角だった可能性があるため、死骸があった場所や成虫・幼虫ごとの数などをしっかり確認し、その後の対応につなげる必要があります。
施工のたびに複数の死骸が見つかる場合は、駆除が不十分だから生息が続いている、と評価できます。効果的なやり方への変更を検討しましょう。
また、死骸を見つけきれていなければ、正しい評価もできませんから、ゴキブリの種類ごとの成虫・幼虫の形態に関する知識が必要です。
適切なくん煙剤施工を行うには
- 死骸の数や場所を記録する
- 発生源調査につなげる
- 効果判定を実施する
- 液剤処理など他の防除方法と組み合わせる
くん煙剤には追い出し効果がありますが、生息場所によっては十分な殺虫効果が得られないことがあります。他の防除手法と組み合わせて活用しましょう。
また、次の記録は忘れずにとり、防虫業者にも伝えた方がよいと思います。
- 実施日
- 場所(どの部屋のどの辺りで、棚の扉や機械ハッチなどは開けたか)
- 使った薬剤
- 駆除結果(死骸の場所・数、ゴキブリの種類、成虫か幼虫か)
ISO22000など食品安全の取り組みとして薬剤使用の実施記録は残すと思いますが、ゴキブリ対策という点では「駆除結果」もとても重要です。業者による施工か、工場での自社施工かに関わらず、防虫活動の年間検証と次年度仕様の見直しで必要な情報です。
まとめると、くん煙剤による自社施工は「生息調査手法の一つ」くらいの認識がよいということです。
くん煙剤など自社施工での殺虫剤の選び方については、こちらでおすすめ商品を解説しています。
関連記事:ゴキブリ用おすすめ殺虫剤|駆除業者が有効成分で選ぶ市販品5選
4.ゴキブリはたまに外から入ってくるだけ
「隙間があるから」「防虫業者から外部侵入と言われた」と諦めてしまい、「まぁいいか」としているケースがあります。
もちろん偶発的な侵入をゼロにするのは難しいですが、問題が起きた時のダメージが大きいため、安易に「外からだから仕方ない」としない姿勢が大事です。
注意するべきポイント
- 内部発生ではない根拠は十分か
- 排水処理設備やマンホール内の調査や駆除を行っているか
- 侵入防止対策に改善の余地はないか
外からの侵入という場合でも、その発生源が敷地内の設備だったというケースは多く、駆除すれば大きく改善できます。
外壁の構造的な隙間が侵入経路になっている場合でも、多額の予算をかけて改築しなくても対策できることがあります。殺虫忌避成分を含侵させた防虫用ネットを詰めるなど、比較的低コストで侵入リスクを下げられる場合もあります。ゴキブリは比較的大型の虫ですから、完全に密閉できなくても侵入はある程度防げます。
「外からだから」と最初から諦めず、ベストでなくてもベターなら前進しましょう。
適切な外部侵入対策を行うには
- 内部発生リスクも考慮して監視する
- 敷地内の発生源を駆除する
- 侵入リスクの高い場所で捕獲を強化する
特に排水設備やマンホールはクロゴキブリの発生源となることがあります。鹿児島では大型のワモンゴキブリが多く、温水が流れ込む排水処理設備では生息リスクが高いです。
建物内だけでなく、敷地全体を視野に入れた管理が重要です。
侵入リスクが高い場所での対策強化
入出荷口や廃棄物搬出口などは、偶発的なゴキブリの侵入の可能性はゼロになりません。そこで、侵入してしまったゴキブリを早期に捕獲・駆除して、奥の製造エリアに移動させない対策も有効です。
入荷口・出荷口・資材置場・開梱室・廃棄物置場・更衣室・手洗い場などには粘着トラップを必ず設置し、定着予防の残効性の液体殺虫剤を定期的に散布することも有効です。畜産の一次処理場など侵入リスクが高い業種では、モニタリング用途は別に捕獲(捕殺)用のトラップをたくさん設置してもよいでしょう。
よくある質問
ゴキブリが1匹だけ見つかった場合でも対策は必要ですか?
食品工場では1匹でも発生原因を調査する価値があります。原因の特定が難しいこともありますが、粘着トラップ増設や薬剤散布など、念のための処置は実施した方がよいです。
粘着トラップで捕獲がないのに薬剤散布は必要ですか?
状況によります。捕獲結果だけでなく、目視調査や従業員からの目撃情報なども含めて総合的に判断するべきです。侵入リスクが高い建物・立地の場合は予防として実施することもあります。
防虫業者の説明を聞いても薬剤施工の妥当性がよく分かりません
納得できなければ無理に実施する必要はないと思います。売上のために薬剤施工すること自体が目的になっているかもしれません。ゴキブリ対策は重要ですから、他社に相見積を依頼してみましょう。
あまり捕獲できないのであれば、捕獲調査をする意味はあるのですか?
あります。客観的・定量的な捕獲データは長期的な防虫管理の妥当性評価で必要です。モニタリング結果は取引先などからも求められます。
捕獲以外の現場観察の結果をモニタリング報告書にあまり書かれても困るのですが
モニタリング報告書にどこまで記載するかはお客様ごとに異なります。推測の域を出ない事柄は口頭や別資料で報告することも多いです。当記事で申し上げたいことは、モニタリング報告書で捕獲ゼロだからといって安心しない方がいいですよ、ということです。
捕殺用トラップで捕まったゴキブリをモニタリング報告書に記載しないのは隠ぺいになりますか?
報告書の読み手がどう判断するかですが、隠ぺいには当たらないと思います。飛翔性昆虫対策では昆虫同定検査をしない捕獲専用の捕虫器の設置はよくあり、ゴキブリも同じ考え方です。IPM(総合的有害生物管理)では捕獲による物理的対策も重視されており、薬剤を使い過ぎない防虫対策として評価されてもいいくらいです。
くん煙剤と液剤散布はどちらが有効ですか?
現場や目的によります。業務用の液剤には殺虫力が高いのが多く、併用するとより効果的です。くん煙剤のピレスロイド系成分は忌避効果があるため逃げて拡散したり、ノックダウンしても蘇生することがあります。床面などに液剤散布しておくことで確実に殺虫できます。予算や手間の問題でくん煙剤しか使えない場合は、できるだけ残効成分が多く入った製品を使い、しっかり清掃しましょう。
まとめ
- 捕獲モニタリングだけに頼らず、生息状況を正しく把握する
- 薬剤散布は目的と手段の整合性を確認する
- くん煙剤は効果判定と記録が重要
- 外部侵入だけでなく内部発生も疑う
- 複数の防除方法を組み合わせて管理する
食品工場のゴキブリ対策では、単一の調査や防除方法だけで判断しないことが重要です。
そして、「調査・設計・施工・効果判定・見直し」のPDCAサイクルを、業者任せにせずお客様も一緒に進めていくと効果的です。
正しい調査と複数の防除方法を組み合わせるIPM(総合的有害生物管理)の考え方に沿って、ゴキブリによる異物混入リスクを最小限に抑えていきましょう。
関連記事:効果的な害虫対策の考え方【IPM】
当社では年間管理はもちろん、単発の駆除施工や、従業員向けの講習会、資材の安価な販売も行っております。お気軽にご相談ください。