住宅に侵入して食べ物などに群がる「アワテコヌカアリ」という小さなアリがいます。
鹿児島では普通にいるアリですが、一般的なアリ用ベイト剤(毒餌)が効きにくいという特徴があります。
このアリでお困りなお客様がいたため、駆除施工の一環として、アワテコヌカアリ対策として使えるベイト剤を試してみました。
アワテコヌカアリとは
アワテコヌカアリの外観

体長1.5ミリほどの、茶色がかった小さなアリです。
小さくて茶色っぽいアリということでヒメアリと似ていますが、配色が大きく異なります。

顕微鏡でそれぞれ拡大した図です(大きさは大体同じくらいです)。
ざっくり言うと、ヒメアリはおしり(腹部)が黒く、それ以外は褐色です。
アワテコヌカアリは頭が黒く、それ以外は褐色です。
アワテコヌカアリの生態(どんな行動をするアリか)
家の中に侵入し、食べ物などに群がる被害があります。
土中に決まった巣穴を作らず、移動しながら狭い所にワラワラっと集まって巣を形成するタイプで、一般的にイメージする「アリの巣」ではありません。
食性は雑食性で、甘いものも食べますし、他のものも食べます。
今回の現場
鹿児島市の住宅街にある一戸建て住宅で、室内のキャットフード(猫用ドライフード)にアリがたかって困る、という現場です。
お客様ご自身で、市販のアリ用ベイト剤はもちろん、「アリメツ」や「アドビオンアントジェル(以下アントジェル)」まで購入して使用していました。しかし、いずれもそこまで大きな効果はなく、やはりキャットフード周辺をうろついていました。
建物外周にアワテコヌカアリの行列があり(外で死んだミミズを食べてました)、たどっていくと、玄関横に積まれたレンガの隙間に巣がありました。




この巣の横で、ベイト剤の喫食テストを行いました。
(※今回はアリ駆除の現場だったため、この巣はテスト実施後、速やかに液剤・粒剤処理で完全に駆除しました)
アワテコヌカアリはベイト剤の成分によって駆除効果に差がある
さて、ここからが本題です。
アワテコヌカアリというあまり聞いたことがないアリに対して、わざわざベイト剤のテストをしたのには理由があります。
駆除効果が薄い有効成分
アワテコヌカアリに対しては、ベイト剤の駆除効果について研究されており、一般的なベイト剤では駆除が難しい可能性があるのです。
- 殺虫成分によっては感受性が非常に低いものがある
- アリの防除に汎用されるヒドラメチルノンは本種に対する効果は著しく低い
- フィプロニルは高濃度に調整しないと本種には効かない
- 一方、ホウ酸は0.5~1% 濃度で効果がある
全く効かないことはありませんが、女王アリを駆除できなかったりなど、コロニー(巣)ごと駆除するのは簡単ではない、ということでした。
引用文献:『アワテコヌカアリ Tapinoma melanocephalum の東京都からの記録』ARI 蟻 (44) 30 June 2023 寺山守ら
著者のお二人(寺山先生・富岡様)は私も志布志市のアルゼンチンアリ防除で大変お世話になった方です。この論文自体は短く、詳細なデータ等の記載はあまりないのですが、信頼性は高いものとして扱っています。
アワテコヌカアリに有効なフィプロニルの濃度
フィプロニルはアリ用ベイト剤によく使用されています。今ホームセンターで手軽に買える緑色のアリ用ベイト剤は、おそらくほとんどがフィプロニル製剤だと思います。
フィプロニルの「高濃度」とはどれくらいなのか、上記文献には直接記載がありませんでした。なので、文献内で引用している元々の研究資料を調べてみたところ、「濃度0.05%のフィプロニルのベイト剤はアワテコヌカアリに対して高い効果があった」ということでした。
0.05%がどのくらい高濃度なのか、日本で市販されているアリ用ベイト剤と比べてみます。
ホームセンターでよく見るアリ用ベイト剤のフィプロニル濃度は商品ラベル等に記載されていませんが、色々調べたところ、フマキラーの「アルゼンチンアリ ウルトラ巣ごと退治」はフィプロニル0.005%であることが分かりました。
参考資料:経済産業省資料『輸入コンテナへの殺虫餌(ベイト剤)設置に係るリスク評価の検討に係る教示依頼』
参考資料:国立研究開発法人 国立環境研究所資料『国立環境研究所研究プロジェクト報告 第 116 号 生物多様性研究プログラム(重点研究プログラム)平成23~27年度 』
今回確認できた市販品では、フィプロニル0.005%でした。これに対して、文献でアワテコヌカアリに高い効果が確認された濃度は0.05%で、濃度だけを比較すると10倍です。
他のフィプロニル市販ベイト剤の正確な濃度は不明ですが、価格帯が近いため、有効成分濃度も同程度だと推察されます。
業務用などでフィプロニル濃度10倍のアリ用ベイト剤があるかというと、少なくとも私が調べた限りはありません。
アリメツやジェル剤はどうか
アリメツの有効成分「ホウ酸」の濃度は約1%で、食べれば高い効果が期待できます。
アントジェルの有効成分「インドキサカルブ」に対しては過去の研究で言及されていませんが、効かないというデータは無く、今度実験してみようと思います。インドキサカルブは農薬以外ではあまり多用されない成分で(ゴキブリ用のベイト剤がありますが喫食性が悪くほとんど使いません)、経験上おそらく食べれば効くと思います。
しかし、どちらも当現場では喫食が悪かったです。私も自分でここのアワテコヌカアリの前にアントジェルやアリメツを置いてみましたが、一般的な吸蜜性のアリのようにすぐ寄ってくることはありませんでした。
「ホウ砂(ホウ酸塩)」を有効成分とする「ジェラニモアントベイト」というアリ用ジェル剤もあり、成分的には効果がありそうですが、砂糖水系よりも猫用ドライフードを好むここのアリに食べさせるのは難しいように思われます。
顆粒のベイト剤
顆粒タイプのアリ用ベイト剤には、他系統の成分を含むものがあります。
- アリアトール(有効成分:アセフェート/有機リン系)
- アリキックベイト(有効成分:ネオニコチノイド系)
これらはヒドラメチルノンやフィプロニルとは全くちがう作用機構をもつ成分のため、効果を試す価値はあります。
ただ、顆粒タイプ(細かい粒)を住宅の室内で使うと散らばってしまうことがあり、基本的に屋外用です。屋外であれば液体殺虫剤や粒剤で強力に殺虫できるため、わざわざベイト剤を使わなくても住宅への被害は減らせます。
住宅の壁内などに居ついたアリを駆除する時、液体殺虫剤や粒剤は室内ではあまり使えないことが多く、室内で安全に使える、かつ、効果的なベイト剤が必要です。顆粒タイプのベイト剤は「部屋の中に出てきて困っているアワテコヌカアリ駆除」としては、やや使いにくいです。
ベイト剤での駆除が難しい!
一般的なベイト剤は有効成分が効果的でなく、アリメツやジェル剤もあまり食べない、顆粒タイプも室内では使いにくい…となると、ベイト剤での駆除がかなり難しくなってきました。
そこで、有害生物を食べ物で釣る時の基本「そいつらがそこで食べてる物を使う」に沿って、猫用ドライフードをベースにしたアリ用ベイト剤を試作してみました。猫用ドライフードなら顆粒タイプのベイト剤よりも大きく、アリが通れる大きさの穴を開けた容器に入れれば室内でも安全に使うこともできるでしょう。
なお、アワテコヌカアリは日本では九州南部や南西諸島には昔から生息していますが、それ以外の地域ではそれほど定着していない全国的にはマイナーなアリ(「どこそこでアワテコヌカアリの生息が確認された」と報告されるくらい)です。そのためか、適用害虫に「アワテコヌカアリ」と明記されているアリ用ベイト剤は、私の調べた限りはありません。
アワテコヌカアリ用ベイト剤の試作
ホウ酸と高濃度フィプロニルを使いたいところですが、フィプロニルを高濃度に調整する材料が入手できないので、代わりに同じフェニルピラゾール系のピリプロールで試作しました。
※ご注意(免責事項)
本検証は、専門知識を持つ害虫駆除業者が現場の施工の一環として安全管理のもと行った試験です。市販の殺虫剤を本来の用法と異なる方法で食品等に混合・使用することは、メーカーの保証外となるほか思わぬ事故につながる危険があります。一般の方の自作・使用は絶対におやめください。また、ペットや小さなお子様がいる環境では誤食に十分ご注意ください。
使う材料
猫用ドライフードは次の2種類です。
- ROYAL CANIN(ロイヤルカナン) ・・・この現場でアリが群がっていたキャットフード
- ねこ元気・・・私の家の猫たちがいつも食べているキャットフード
殺虫成分は次の殺虫剤希釈液を使いました。
- アリメツ(有効成分:ホウ酸 約1%)の1.5倍希釈液・・・0.6~0.7%濃度
- ムシクリンFL(有効成分:ピリプロール 2.5%)の200倍希釈液・・・0.0125%濃度
ホウ酸は「ホウ酸そのもの(原体)」をAmazon等で買うこともできますが、精密な計量が当店では難しいのと、アリが一般的に好むフレーバーを活用したかったのでアリメツを使いました。
ピリプロールはアシジロヒラフシアリやアルゼンチンアリ用に0.004%濃度のジェル剤があり、それの約3倍です。論文データではフィプロニルは市販品の10倍濃度ですが、そこまで高くはしていません。
このムシクリンFLは200倍希釈液でも接触でアリに対して十分な殺虫力があり、経口摂取させるのに0.05%濃度(50倍希釈液)では濃すぎて逆に上手くいかないのではと思ったので、まずはこの希釈倍率で実施しました。
猫用ドライフードに殺虫剤希釈液をからめて、風乾させました。

写真はアリメツ希釈液をからめたもので、少しとろみがついています。ムシクリンFLの方はただの希釈水なのでもっと水っぽくなりました。
これらをしっかり乾かしました。
試験結果
喫食性(食べるかどうか)と、殺虫効果(死ぬかどうか)を検証しました。本来であればコロニーごと駆除できるか(幼虫や女王アリも死ぬのか)も検証したいところですが、お客様の現場で実験だけしているわけにいかないので、今回は食べに来た働きアリに対する殺虫効果だけの検証です。
喫食性の試験

アリメツ希釈液をロイヤルカナンにからめたもの。アワテコヌカアリが大量に群がっている。

ムシクリンFL希釈液をロイヤルカナンにからめたもの。アワテコヌカアリがそこそこ群がっている

ムシクリン希釈液をねこ元気にからめたもの。アワテコヌカアリがそこそこ群がっている
喫食性の結果
どれもアワテコヌカアリは群がりましたが、アリメツ+ロイヤルカナンが最も好まれました。
もともと大好きだったロイヤルカナンに、アリメツの甘さも加わって、絶品の味わいになったのかもしれません。
ムシクリンFL希釈液に忌避効果は無いので喫食性に特に影響は出ず、ロイヤルカナンとねこ元気に大きなちがいは見られませんでした。
殺虫効果の試験
それぞれの試験ベイト剤だけを食べたものを個別に保管し、推移を観察しました。
群がっている猫用ドライフードごと容器に移しました。

次のような結果になりました。
アリが群がっているキャットフードごと移したため、それぞれの個体数はバラバラです。そのため、「致死数」ではなく「致死率」で記載しています。アリメツの方は大体50匹ほど、ムシクリンFLの方は大体20匹ほどでした。
| ベイト剤 | 2時間後の致死率 | 16時間後の致死率 | 24時間後の致死率 |
|---|---|---|---|
| アリメツ(ホウ酸)+ロイヤルカナン | 0% | 95% | 100% |
| ムシクリンFL(ピリプロール)+ロイヤルカナン | 100% | 100% | 100% |
| ムシクリンFL(ピリプロール)+ねこ元気 | 100% | 100% | 100% |
車移動や他の業務があったため中途半端な時間での確認になってしまいましたが、大体分かると思います。
アリメツは元々の商品で「4~24時間で中毒死する」、と記載されている通りの結果になりました。
ムシクリンFLの方は、アシジロヒラフシアリ用のベイト剤を試験した時の結果を踏まえれば、妥当な結果だと思われます。ただ、殺虫効果が早く出過ぎると巣に持ち帰れなくなってしまうため、どのくらいの時間だったのかは再試験した方がよさそうです。
関連記事:アリ駆除用毒餌の比較|鹿児島で激増中の黒くて小さいアシジロヒラフシアリ対策
殺虫効果試験の結果
希釈液を猫用ドライフードにからめて風乾させたものでも、十分な殺虫力があることが分かりました。
なお、これが純粋に喫食(経口摂取して体内に入った)によるものか、ドライフード表面を歩いて接触したことによるものかは定かではありません。ただ、ホウ酸は基本的に経口摂取して効果が出るものなので、少なくともアリメツの方は食べたことによる結果と考えられます。
今回は施工現場における早急な駆除を優先したため、無毒の餌を食べた個体群を比較対象として試験することができませんでした。とはいえ、普通に考えて24時間で勝手に全滅する可能性は低く、毒餌の効果と考えてよいと思います。
この試作ベイト剤でコロニーごと駆除できるかは未確認ですが、他にも食べ物がある屋外環境でこれだけ喫食性が良く、働きアリへの殺虫効果も期待値通りであれば、コロニーへの効果も期待できるように思います。
ベイト剤は効くのが遅い方がよいか
アリメツは4~24時間、アントジェルは2~4時間で殺虫効果が出るとされています。巣に持ち帰らせるという点では確かに遅く効く方が成功確率が高そうです。
しかし、屋外の巣からの行列を液体殺虫剤や粒剤で遮断できる場合や、アシジロヒラフシアリのように毒餌の伝播が難しい場合は、巣に持ち帰らせる必要がありません。アリを駆除したいというお客様は部屋の中のアリに早くいなくなってほしいわけで、1~2時間で殺虫できるピリプロールのベイト剤の方が適しているケースもあります。
アリでお困りの場合は、色々な方法を検討して、最もお客様の目的に合う方法を選ぶことが大切です。
まとめ
猫用ドライフードにアリメツ(ホウ酸)やムシクリンFL(ピリプロール)希釈液をからめて風乾させたものは、喫食性・殺虫効果ともに、アワテコヌカアリの働きアリに対して有効なことが分かりました。
アリは種類だけでなく時期によっても食性の好みが変わることがあるため、いつでも必ず有効とは限りませんが、ジェル剤や市販アリ用ベイト剤での駆除が難しいケースでの選択肢が一つ増えました。
市販のアリ駆除剤で問題が解決できない場合は、ぜひご相談ください。
なお、アリやゴキブリなど有害生物への対策では、ベイト剤や液剤などの殺虫剤だけでなく、害虫が増えにくい環境整備や、捕獲・移動経路遮断とした物理的な対策を組み合わせて、害虫の「害」を抑えていくことが重要です。詳しくは下記記事をご参照ください。
関連記事:効果的な害虫対策の考え方【IPM】