アリ用の毒餌(ベイト剤)市販品・業務用など色々な商品があります。
今回は、鹿児島の住宅やお店、工場などで被害が拡大している「アシジロヒラフシアリ」に対する効果を比較検証しました。
結論:
- プラスチックケース入りの市販品は、そのまま置いてもほとんど食べない
- 水分が重要
- 誘引力・持続力・致死スピードともにピリプロールのハイドロジェルが最も良かった
はじめに
この比較テスト結果は、商品の優劣を評価するものではありません。アリは種類によって好む餌が全く異なり、同じ種類のアリでも時期によって好む餌が変わることがあります。
あくまで、鹿児島市の7月初旬におけるアシジロヒラフシアリのテスト結果です。アリの種類や時期がちがえば、結果は全く変わる可能性があります。
設備的な問題もあり、テスト方法はやや大雑把なものです。
アシジロヒラフシアリの防除において、当テストで行っているような屋外での毒餌設置は効果的ではありません。屋外環境には膨大な数のアシジロヒラフシアリがおり、ベイト剤で駆除できるのは氷山の一角で、不用意に使うと際限なくアリを集めてしまう結果になります。建物への侵入経路を遮断してから、建物内に侵入・営巣してしまった個体の駆除で使用すると効果的です。
試験対象の『アシジロヒラフシアリ』とは



鹿児島県の多くの市町村で数年前から激増しているようです。
「家や工場の中に出る、2~3ミリの黒くてめちゃくちゃ大量発生するアリ」と聞いて心当たりがある方は、この記事をぜひ参考にしてください。
対策の方法は別記事にてご紹介しますが、このアリの特長を簡単にご説明します。
- 体長は2.5ミリ
- 数百万匹におよぶスーパーコロニーを作る
- 土中に巣穴は掘らず、木のウロや葉っぱだまり、建物の壁内などに巣を設け、巣は移動させていく
- 餌を持ち帰って幼虫に与えて育てるのではなく、働きアリが栄養卵という幼虫を育てるための卵(のようなもの)を産む
一般的にイメージするアリとは生態が大きく異なり、それに合わせた方法で対策する必要があります。
どんな被害が起きるか
(土中ではなく)狭い場所に巣を作るという性質から、住宅だけでなく、工場や倉庫でも問題を起こすケースがあります。
一般住宅・お店
- 室内に大量に出てきて不快(ウジャウジャいて気持ち悪い)
- 給湯器など機械の中に営巣し故障させる
工場・倉庫
- 製品に異物混入する
- 製品倉庫のパレットやダンボールに営巣し、そのまま出荷されてしまう
比較するアリ用毒餌
- ウルトラ巣のアリ フマキラー
- アリの巣コロリ半生タイプ
- スーパーアリの巣コロリ
- アリメツ
- アドビオン アントジェル
- 試作ハイドロジェル(ピリプロール0.004%)
- 試作ハイドロジェル(ピリプロール0.003%)
ウルトラ巣のアリ フマキラー

ホームセンターで見かける市販品です。
有効成分:フィプロニル、ホウ酸
アリの巣コロリ半生タイプ
ホームセンター等で見かける市販品です。
有効成分:フィプロニル
スーパーアリの巣コロリ

ホームセンターで見かける市販品です。
2種類の餌(つぶつぶの顆粒と、ペースト状のジェル)が入っています。
有効成分:顆粒・・・フィプロニル、ジェル・・・ジノテフラン
アリメツ

ホームセンターで見かける市販品です。
こちらは上記3種類のようなものとは違い、シロップのような少しとろみがついた液体です。お皿が付属しています。
有効成分:ホウ酸
アドビオン アントジェル

業務用のアリ用ジェルベイト剤です。ほとんどの駆除業者は使っていると思います。一般消費者の方もインターネットで購入することができます。
有効成分:インドキサカルブ
試作ハイドロジェル(ピリプロール0.004%・0.003%)

私が製作したものです。
有効成分:ピリプロール(フィプロニルと同じ系統)
東京都立大学などが八丈島で実施しているアシジロヒラフシアリ対策で使用したハイドロジェルを、公開されているレシピをベースとし、自身の使用経験から少し変更しました。
主な変更点(詳細は最下部※1)
・有効成分
・砂糖濃度
・吸水樹脂量
注意点
これらのうち、商品の適用害虫に「アシジロヒラフシアリ」と明記してあるのはアドビオンアントジェルだけです。4種の市販品は、そもそもアシジロヒラフシアリ用に設計開発されていない商品、ということになります。
毒餌以外の要因(飢え死など)の可能性もあるため、毒餌を入れたタッパーとは別に「砂糖水ジェルのみ」「何も入れない」という2種類のタッパーも用意しました。このタッパーのアリが生きていれば、何もしなければ生きているでしょう、ということです。
テスト方法
鹿児島市内でアシジロヒラフシアリの行列ができている所を見つけ、行列から物理的に採取してきました(刷毛でタッパーに落として集めた)。
タッパーに10〜20匹ずつ入れ、各毒餌を設置し16時間まで観察しました(詳細は最下部※2)。



テスト結果
結果はこのようになりました。
表のパーセントは駆除率です。0%は全て生きている。100%は全て死んでいる。
例えばアントジェルなら、1時間では全て生きていて、3時間後には90%が死に、6時間後には100%死んだ、ということです。
| 毒餌/経過時間(駆除率) | 1h | 3h | 6h | 16h |
|---|---|---|---|---|
| ウルトラ巣のアリ フマキラー | 10% | 10% | 30% | 30% |
| アリの巣コロリ半生 | 0% | 0% | 0% | 10% |
| スーパーアリの巣コロリ | 10% | 30% | 30% | 40% |
| アリメツ | 10% | 10% | 30% | 70% |
| アントジェル | 0% | 90% | 100% | 100% |
| 試作ハイドロジェル0.004% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| 試作ハイドロジェル0.003% | 100% | 100% | 100% | 100% |
| 砂糖水ジェル | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 何も無し | 0% | 0% | 0% | 0% |
※ひっくり返って痙攣している個体は、その時点で死んだ駆除個体としてカウントした
市販品について
緑色のプラスチックケースに入っている3商品は、アリがほとんど食べに来ない様子でした。それでも多少は効果が出ています。食べたというよりも、接触したことによる殺虫成分摂取かもしれません。
アリメツはやや意外な結果でした。メーカーHPには「4~24時間で中毒を起こし最短翌日には死ぬ」とありましたが、48時間以上を経過した後でも元気に歩いているアリは数匹いました。食べていない、もしくは、ホウ酸濃度の偏りが多少あるのかもしれません。タッパーに入れた時点でかなり食いつきが良かったため、100%になるかと思ったのですが。ただ、アリメツはほぼ液体の殺虫剤で、お皿に入れてもこぼしてしまう危険があります。少し使いにくい印象の毒餌です。
業務用ジェル剤について
アントジェルは意外と時間がかかりました。
試作ハイドロジェルは食いつき、致死率ともに良い結果となりました。1時間後には元気な個体は1匹もいなくなっていました。
ピリプロール濃度は0.003%も0.004%も同じになったことはやや驚きでした。0.003%はもう少し遅くなると予想していました。
ジェル状の毒餌は垂直面にも塗布できるため、使いやすさも良い毒餌です。
※業務用ジェル3種類は再度同じテストを行いましたが、結果はほぼ同じでした。
追加テスト:野外フィールド試験
市販品にほぼ全く反応しなかったため、名誉挽回もかねて野外のアシジロヒラフシアリの行列ができている所で、喫食テスト(食べるかどうか)も行いました。
| 毒餌 | 状態 | 設置直後 | 30分後 | 1時間後 |
|---|---|---|---|---|
| ウルトラ巣のアリ フマキラー | そのまま | 食べない | 少し食べる | 食べない |
| 中身を削って出した | 食べる | 食べる | 食べない | |
| 水に浸した | 食べる | 食べる | 食べない | |
| アリの巣コロリ半生 | そのまま | 食べない | 食べない | 食べない |
| 中身を削って出した | 少し食べる | 食べない | 食べない | |
| 水に浸した | 食べない | 食べない | 食べない | |
| スーパーアリの巣コロリ | 顆粒 | 食べる | 食べない | 食べない |
| ペースト | 食べない | 食べない | 食べない | |
| ハイドロジェル0.003% | そのまま | 食べる | 食べる | 食べる |
| ハイドロジェル0.004% | そのまま | 食べる | 食べる | 食べる |

ウルトラ巣のアリフマキラーの中身を削って置いてみると、行列のアシジロヒラフシアリがやってきました。
市販のアリ用毒餌は、工場で製造されてから実際に使用されるまで、相当長い時間を経過しているはずですから、表面が乾いてしまっています。中身を削ってだすことで、中身のしっとりした部分が表に出てきてアシジロヒラフシアリも満足するようです。
市販品では避けにくい課題でしょう。

「表面が乾いていることが問題なのであれば、使う前に水に浸してみたらどうだろう?」ということで30秒ほど水に浸してみました。
写真中央がケースごと水に浸した餌、右は水に浸さずに置いただけの餌で、明らかに水に浸した方に多く群がりました。ただし、表面は乾きやすく、1時間もしないでアシジロヒラフシアリは食べなくなりました。
こうした市販品を使う際は、軽く水に浸してから使った方がよいかもしれません。中身を削って出すのは、商品パッケージ裏面の注意事項で禁止されています。

アリの巣コロリ半生も、中身を削って行列の近くに置いたら多少は食いついてきました。
ただ、30分もしないでアシジロヒラフシアリはいなくなってしまいました。
※代わりにもっと小さい別のアリが群がっていました。アリによって好みが大きく分かれる証拠です。

アリの巣コロリ半生も水に浸してみました。
しかし、フマキラー製品とはちがい、水に浸したものも、浸さなかったものも、ケースに入れたままではアシジロヒラフシアリは全く寄ってきませんでした。

スーパーアリの巣コロリは水に浸すことはできません。
そのまま行列の近くに置いてみたところ、顆粒の方にやってくるアシジロヒラフシアリがいくらかいました。
ペースト状の方が水分が多そうですが、意外でした。

さらに意外だったのが、一部のアシジロヒラフシアリが顆粒を運んで行ったことです。
アシジロヒラフシアリは幼虫のために餌を運んで与えることはしないはずですが、こうして運んでいくこともあるんですね。
それでもここにいるアシジロヒラフシアリの1%にも満たない数のアリしか運んでいかないので、かなりイレギュラーな行動なんだとは思います。

試作ハイドロジェルを塗布してみると、ものすごい数のアシジロヒラフシアリが集まってきました。あっという間にジェルを一周囲んでしまいました。
他の市販品毒餌は1時間もすると乾いてしまってアリはほとんど群がっていませんが、ハイドロジェルは水分を多く保持できるため、2時間しても多く集まっていました。

左の図は、ハイドロジェル塗布後2時間程度してから群がっていたアシジロヒラフシアリを風で追い散らした図です。ジェルの周りからアリがいなくなっています。
記事前半でご報告した通り、ピリプロールのハイドロジェルは1時間程度で殺虫できますが、2時間後にもハイドロジェルの周囲に死骸がないということは、喫食したアリはちゃんと移動していったことを意味しており、これは素晴らしいことです。
ジェルの周りで死んでしまうと次のアリがジェルを吸うことができなくなってしまい、それが今回ピリプロール濃度を少し低めに設定した理由でした。このテストでは0.003%でも0.004%でもジェルの周囲にはアシジロヒラフシアリの死骸はほぼ見られず、良い結果が得られました。
野外フィールド試験の補足
食べたアリを殺虫できたかどうかは確かめられませんでしたが、前段の室内テストと同じ結果と考えられます。
実施したのは7月3日(金)12:30~14:30頃です。天気は曇り。場所は鹿児島市伊敷。
よくある質問
市販のアリ用毒餌は効かないのですか?
食べれば殺虫効果はあります。フィプロニルやホウ酸に殺虫効果がないとは考えられません。ただ、アリの種類によっては好みが合わず、食べないことがあるということです。今回テストしたアシジロヒラフシアリは鹿児島でかなり増えており、このアリで困っている時に市販品を置いても、状況は改善しない可能性が高いです。
ハイドロジェルはどこで手に入りますか?
「アドビオン アントジェル」はネットショッピングで購入可能です。それと、今回のテストでは使っていないものでイカリ消毒様の「ムシクリンハイドロジェル」という商品もあります。高価ですがこちらもネットで買えます。私が試作したハイドロジェルは商品化しておりませんが、詳細はお問い合わせください。
冒頭で「屋外での毒餌設置は効果的でない」とありますが、どうしたらいいの?
アシジロヒラフシアリは数が多すぎて、屋外のコロニーを駆除し尽くすのは現実的ではありません。建物に侵入してこないように環境整備と薬剤処理を行う必要があります。すでに建物に侵入し、壁内などに巣を作ってしまっている個体群は毒餌で駆除します。アシジロヒラフシアリ対策における毒餌の役割は建物内に定着した個体の駆除であり、屋外からの侵入を止める前にハイドロジェルのような好む餌を置いてしまうと、屋外から無限に近い数のアリが侵入してきます。このアリの防除は難しく、対処方法は現場により異なります。お早めにご相談ください。
アリがたくさん出て困っているけど、アシジロヒラフシアリかどうか分からない
鹿児島で、黒くて2~3ミリのスマートなアリが大量にいたら、アシジロヒラフシアリの可能性があります。茶色だったら別のアリです。種類の判別は難しいですから、お困りなことがあればご相談ください。
ハイドロジェルはアシジロヒラフシアリ以外のアリには効かない?
甘い水分を好む吸蜜性のアリには効果が高いです。甘い水分にほとんど興味を示さないアリもいます。濃度20%くらいの砂糖水を作って試してみて、それを好むようなら効くはずです。
今回確認できたこと
- アシジロヒラフシアリは乾燥した毒餌はほとんど食べなかった
- 水分の多いハイドロジェルは非常によく食べ、殺虫効果も高かった
- 市販品でも湿らせることで喫食性が改善するものがあった
市販品は表面が濡れるだけで水分を多量に保持することはできないため、乾きやすく誘引力は落ちやすいです。
一方、ハイドロジェルで使用している吸水性ポリマーは自重の400~700倍の水分を吸収することができ、保持する水分は「半生」どころか「全生」と言ってよいほどプルプル・チュルチュルです。甘い水分を好むアシジロヒラフシアリには対しては、市販品とは比較にならないほどの性能を発揮しました。
まとめ
もともと専門家の研究によって分かっていたことではありますが、アシジロヒラフシアリには水分量の多い毒餌であるハイドロジェルが最も適しています。
すぐに食いついてくる誘因性・1時間程度で殺虫できるスピード・2時間しても次のアリが食べられる持続性と、アシジロヒラフシアリ駆除で必要な要素がそろっています。
市販の固形アリ用毒餌は、そもそもアシジロヒラフシアリのようなアリを対象にした殺虫剤ではなく、使用しても高い効果は得られにくいでしょう。もし使う場合は、30秒ほど水に浸してから使ってみてください。
アリメツは市販の中では効果的です。こぼさないよう注意して使ってください。
アシジロヒラフシアリは優れた毒餌を使えば被害を抑えられるアリではありません。お困りなことがあれば、お早めにご相談ください。
記事注記
※1 公開されているハイドロジェルのレシピからの主な変更点
- 有効成分:チアメトキサム → ピリプロール
- 高吸水性樹脂含有量:0.5% → 0.4%
- 砂糖量:30% → 20%
チアメトキサムはスーパーアリの巣コロリのペーストのジノテフランと同じく「ネオニコチノイド系」の成分です。ネオニコチノイド系は水に溶けやすく、その水を草木が吸収して、その花の花粉や蜜を摂取したミツバチが異常をきたす、というリスクがあります(少量なら問題は起きないと思いますが)。
それと、チアメトキサムが入っている液体殺虫剤からチアメトキサムを必要量正確に取り出すのが難しく、正しく製作できない恐れがありました。以前にレシピ通りにチアメトキサムで作ってみたのですが、有効成分濃度が下振れしてしまったのか、駆除効果があまり得られませんでした。今回は水に溶けにくく、希釈して濃度もまずまず正確に保てるピリプロールにしました。
高吸水樹脂は水を吸ってジェル状になるもので、保冷剤や紙おむつなどで使われているものです。ハイドロジェルの水分量を少し多くしたかったので少し減らしました。
砂糖水は30%ではなく20%水溶液でもアシジロヒラフシアリは十分誘引でき、砂糖の量が多いと家の壁などに処理した時にベタつきが増えるため、20%の砂糖量としました。
※2 室内でのベイト喫食テスト方法
空気穴を開けたタッパーにアリを入れ、各毒餌を1種類ずつ置いて経過を観察しました。
アリの数は10~20匹で、テスト開始時点ではそれぞれの正確な数は分かっていません。高速で動き回るため、数えたり移動させたりするのが困難なためです。
アリの数は後で数えて、駆除できたアリの比率で比べることとしました。
参考文献
外部リンク:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所HP 外来家屋害虫アシジロヒラフシアリに対するハイドロジェルベイト剤の新規開発と住民参加型防除プログラムの効果の評価について
外部リンク:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所HP 外来アリ類防除に広く利用できる植物由来で生分解性の駆除剤を開発